「中継アナの鉄人」深澤弘さんを悼む(6)―(露久保孝一=産経)

◎新潟から東京を見れば実態がよくわかる
 深澤さんは、2002年から、新潟県民エフエム放送の東京支社長を勤めた。
「新潟はいいところだよ。コシヒカリはうまいし、きれいな日本海が見られる。東京にないおいしい空気があるよ。遠いところから、東京を見るものいいもんだ」 
 私は、何度か新潟へ遊びに行こうと誘われたが、一度も実現しなかった。
 新潟エフエム放送のFM PORTは、地方としては珍しい独立県域FM局で、一日中自社制作番組の独自の放送をおこなってきた。同局はスポーツ中継にも力を入れ、そこに深澤さんが加わって花を添えた。深澤さんは、毎週日曜夕方、プロ野球を中心としたスポーツトーク番組を担当し、長嶋茂雄、王貞治、落合博満らとの幅広い交流のなかから、選手のエピソード、魅力などを伝えて番組を盛り上げた。
▽野球実況のほかプロバスケットも
 10年に新潟でおこなわれたオールスター戦では、自ら実況中継して、その声を新潟県内だけの視聴者に届けた。FM PORTにとってはスポーツ中継の最大のイベントとなり、「プロ野球ラジオ実況の教科書」として深澤さんの実況に興奮し「社をあげて」取り組んだ。
 野球だけでなく、プロバスケットボールの実況をしたこともある。当時のbjリーグ新潟アルビレックス(現新潟アルビレックスBB/Bリーグ)のホームゲームを担当した。深澤さんのラジオ実況中継を聴いた視聴者は、「あの深澤さんといえばショーアップナイターの名アナウンサー。その人がプロバスケットの中継をしたのだから、驚いた」と感想をもらした。深澤さんは、若いころ、競馬中継もやったことがあり、「スポーツの情熱はみな一緒。技術、ルールを学べば、中継はできる」と意欲を示していた。プロバスケット中継もなんなくこなした。FM PORTは20年6月に閉局した。
▽新潟生活で体験した野球観と人生観
 深澤さんにとって、新潟行きは、別の感慨もあった。
 「露ちゃん(私のこと)、日本海の新潟から東京のプロ野球を見るとよくわかるんだ。石原慎太郎さんも言っていたけど、富士山をよく見るためには、富士山の近くにいてはわからない。海に出てヨットから見ると富士山の良さ、美しさがわかるという。それと一緒。新潟にいて野球界全体を見るとよくわかる。巨人、ヤクルト、西武、ロッテの善し悪しも。なぜ、プロ野球が面白くなくなったのか。何が今のプロ野球に欠けているのか、とか。人間って楽しいよ」
 その「なぜ」と「欠けている」ものは、あとで話すよと言いながら、持ち越しのままになってしまった。しかし、深澤さんが言いたいことは、私は、長い付き合いの中から理解できるのである。(続)