「記録の交差点」(34)-(山田 收=報知)
第34回 秋山翔吾⑧
秋山をナビゲーターにしたこのシリーズ最終回は、秋山本人に登場願う。10シーズン破られていないシーズン最多安打記録(216)を達成した2015年。602打数、打率.359、得点108、二塁打36、三塁打10、本塁打14、出塁率.419。しかもフルイニング出場、はトップバッターとして出色の成績といえる。
ところがこの年、秋山は首位打者を取れていない。2年ほど前からフルスイング打法で注目されていた柳田悠岐(ソフトバンク)にタイトルを奪われたのだ。第27回で述べた通り、2人はともに2010年ドラフト組。当初、秋山を2位指名予定としていたホークスが、王貞治会長の一声で、長打力に優る柳田に変更。秋山は3位で西武に入団する。
ともに地方大学(秋山は八戸大、柳田は広島経済大)出身の左打者という共通点はあるが、片や希代の安打製造機、一方はコンタクト力抜群のスインガーと持ち味は全く異なる。同年齢の2人は同リーグ、同じセンターであっても互いをリスペクトしている。
柳田は秋山を「ヒットゾーンが広く、タイミングの取り方が巧み。足、守備力を含めてパーフェクトプレーヤー。守っていても『その球をヒットにするか』と思う」と評価。秋山もまた柳田を「スイングスピードの速さ、コンタクト能力の高さと飛距離の出る角度。センター前ヒットで二塁を狙う走力も凄い」と認め合っている。
だから2015年、首位打者を取れなかったことは「残念に思わなかった」という。この年、柳田は502打数182安打(2位)、打率.363、得点110、二塁打31、三塁打1、本塁打34。打率以外にも得点、塁打(317)、四球(88)、長打率.631、出塁率.469がリーグトップ。32盗塁は2位。パ・リーグでは、2002年の松井稼頭央(西武)以来、6人目のトリプルスリー達成者となった。
このハイレベルな数字の前に秋山のタイトル奪取はならず。ちなみに.359は、首位打者を逃した史上2番目に高い打率である。トップは、1986年のクロマティ(巨人)の.363。首位打者はバース(阪神)で.389(NPB最高打率)だった。
秋山は2015年から19年まで5シーズン連続でフルイニング出場し、17年から3年連続最多安打(185、195、179)を果たす。パ・リーグで3年連続達成は、榎本喜八、ブーマー、イチロー(5年連続)。セでは長嶋茂雄(6年連続)、田尾安志しかいない。
「柳田を身近で見て、自分を受け入れざるを得なかった。ある意味、自分の生きる道を明確にしてくれたのが彼だった」という秋山は、柳田がいてこそ、ヒットメーカーに徹することができたと思える。2014年9月1日から19年9月26日まで739試合フルニング出場(NPB歴代2位)の記録を残して、MLB挑戦のため日本を離れた。
秋山不在の2020年。柳田は146安打(コロナ禍で120試合制)で、初の最多安打のタイトルを手にする。「秋山さんがいなくなって初めて取れた最多安打。僕にとっては『秋山翔吾』というタイトルです」と“ギータ節”で喜びを語った。
2020年、秋山は広島に移籍。あと248本となった2000本安打(日米通算なら177本)を目指す。
次回からは2人と同じ1988年生まれの世代リーダー、田中将大を軸としたシリーズを始める。=記録は2025年シーズン終了時点=(続)
