「いつか来た記者道」(81)-(露久保 孝一=産経)
◎甲子園以外で高校野球大会を開く?
毎年3月になると、選抜高校野球大会が盛り上がる。兵庫県西宮市の甲子園球場に全国から選ばれたチームと応援団が集合する。甲子園と聞けば、高校野球のメッカであり、阪神タイガースの本拠地である。選抜大会は2025年で97回目となる。すべて「聖地」甲子園で開催されていると見られがちだが、一度だけ他球場で開かれた実績がある。第1回大会が名古屋で開催されているのだ。その球場は「山本球場」である。のちにJR東海八事(やごと)球場に変わり、巨人―阪神戦もおこなわれたが平成に閉鎖された。
1922(大正11年)、運動具店経営の山本権十郎が私財を投じて名古屋市中区広路町(現・昭和区滝川町)に総面積約2800坪、2000人収容の野球場を造った。右翼と比べ、左翼側が狭いという歪んだグランドだったが、愛知県初の本格的な野球場であった。1年半後、この球場に選抜中等学校野球大会(現在の選抜高校野球大会)をもってこよう、と誘致運動が起こった。「関西での大会となると西の方のチームばかりが優勝する。それなら、名古屋でやればこちらの方のチームが優勢になるかもしれない」という地元ファンが、主催の大阪毎日新聞に働きかけた。大阪毎日は中京ファンの熱意を受け入れて山本球場での開催を決めた。大会は24年4月1~5日に実施された。
出場は早実(東京)、Y校(横浜商、神奈川)、愛知一中(現・旭丘高)、立命館中(京都)、市岡中(大阪、現・市岡高)、和歌山中(現・桐蔭高)、高松商(香川)、松山商(愛媛)の8校だった。優勝は、「西のチームではなく東のチームから」という期待は外れ、高松商となった。選抜中等学校野球は第2回から甲子園に移り、その後はすべて甲子園で開催されている。
▽高校球児のあこがれの聖地なのだが…
プロ野球の試合は、36年(昭和11)7月に巨人−大阪タイガース(阪神)の公式戦初対決がおこなわれ、タイガースが8-7で勝った。山本球場はのちに社会人の国鉄、JR東海の練習グラウンドとなった。老朽化が進み、球場は90年(平成2年)に廃止された。現在は住宅地となり球場の面影はない。
甲子園での高校野球は、夏の大会開催をめぐって最近、猛暑下での試合を避けるために、早朝と夕方以降の試合数を増やせとか、ドームなど他球場でおこなったらどうかとか、議論が交わされるようになった。ドームなら京セラドーム大阪やバンテリンドームナゴヤ、あるいは東京にも福岡にもある。炎天下や雨天での試合は避けられる。高校球児にとって甲子園はあこがれであり、甲子園をめざして野球をやっているという強い気持ちがある。しかし、選抜第1回大会が名古屋でおこなわれているのだから、環境を考慮しながら、甲子園以外での開催も検討してみてはどうだろうか。(続)