原辰徳(寺尾皖次=テレビ東京)

◎ドラフト1位の日の胴上げ

 
はじけるような明るい笑顔が今でも浮かんでくる。1980年11月21日、東海大の原辰徳が巨人からドラフト1位で指名された日のことである。
 前日の夜、私は原の実家を訪ねた。
 父親の貢さん(故人)に取材の約束を取り付けるためだった。貢氏は東海大の監督でもあったからだ。
 「指名を受けた後、30分間を置いて合宿(神奈川県平塚市)で会見してほしい」
 「分かった」
 原親子はドラフト会議が始まると、二階の部屋に閉じこもり、指名のテレビ中継を見ていた。入団を熱望した巨人が指名権を得た。私は階段を駆け上がり、声をかけた。
 「すぐ会見してくれませんか」 
 二人は満面の笑みを浮かべながら階段を降りてきた。30分後の会見、との約束はどこかに吹き飛んでいた。学生服姿の青年は喜び、その気持ちを会見で素直に語った。“明日のスター”の雰囲気が感じられた。
 私は野球部の後輩選手たちに頼んだ。
 「どうだい君たち、原を胴上げしてくれないか」
 むろん、OK。原を前庭に呼び、そこで胴上げが始まった。原はニコニコ顔で宙を舞った。
 プロに入り、スター選手として名を残した原。“若大将”のニックネームは野球ファンならだれでも知っている。球界の大物の一人となったが、私はドラフト1位指名のあの日の笑顔が忘れられない。(了)