「KKドラフトの舞台裏」第3回-(山田 收=報知新聞社)

◎第1志望早大、でも巨人ならプロ入り

▽密約? そんなのありませんよ

あっと驚く巨人の桑田単独指名・入団に、世間では「巨人・桑田密約説」が一気に流布した。
 「密約なんてありませんよ」
 と桑田は断定している。
 では、なぜ巨人だけが桑田を指名したのか。
 「早稲田が第一希望だが、巨人だったらプロへ行く」
 というのが、桑田の本心だ。
 その思いを巨人だけが掴んでいた。単純に言えば、そうなる。
 そのキーパーソンが当時の巨人・伊藤菊雄スカウト次長(当時関西在住)だ。
伊藤菊さんは辣腕といわれたスカウトである。
 当時、東京には伊藤芳明スカウトがいて、我々は伊藤ヨシさん、キクさんと呼び分けていた。その後、スカウト部長として、東京で顔を合わせることも多かったが、球団担当記者には、ほとんど本音を明かさない。
 当時のスカウトは一筋縄ではいかない人物ばかりで、番記者泣かせではあった。

▽キーパーソンは辣腕スカウト

その菊さん。息子の敬司君がKKたちの2年下(立浪、片岡、野村ら春夏連覇のメンバー)に在籍。選手父兄の立場でPL学園に出入りできるという“特権”をもっていた。
 桑田自身は、
 「自分の希望は誰にも言っていなかった」
 と話し、
 伊藤氏や当時、選手たちの進路に大きな影響力を持っているといわれたPL学園元監督の井元俊英氏(当時PL学園職員)にも本心は明かしていない、という。
 だが、伊藤氏は間違いなく、
 「巨人ならプロ入り」
 という本心を確信していたと思われる。
 桑田がスポーツライター・石田雄太氏のインタビューに、
 「伊藤菊さんには見透かされている、と思った。経済的に苦しかったこと、僕が巨人ファンだったこと、やがてプロ野球選手になりたいと思っていたこと、そういう情報は掴んでいたかもしれません。菊さんは、僕の本心を含めてすべてを見抜いていたような気がする」
 と雑誌「Number937」で答えている。(続)