「セ・リーグDH採用で球界が変わる?」-(山田 收=報知)

第19回 再び賛成論に光を当てる
 前回は大御所・野村克氏のDH導入反対論を紹介した。新しい制度を採用するときは、必ず賛成・反対論が巻き起こるもの。これまでどちらかといえば、球界関係者たちの考えを中心に伝えてきたが、大事なのは、ファンがどう受け止めているか。採用するなら、多くのファンに喜んでもらいたい、ということに異論はないと思う。確かにネットには両論相乱れているのも事実だが。
 ということで、今回は熱心な野球ファン(巨人ファン)である糸井重里氏が11月に寄稿したスポーツ報知のコラムを引用させてもらう。今季終盤戦、全くと言っていいほど機能しなかった巨人打線を例にとり、7~9番について「これで3アウト」と断罪。「これが1試合に3度もあるわけだから、攻撃6イニングで試合をやっていたことになる」と手厳しい。さらに「セのどのチームも実は似たようなものだ。投手のところが1アウト分だけと思ったら大間違いで、もともと弱い下位打線の中に投手が組み込まれているということなのだ」とまるでセ他球団の下位打線が腑抜けのようにも受けとれるが、これが糸井流表現だろう。
 その上で「投げる投手だって、それを相手にしているのだから、進化する機会をみすみす失っているといえる」と踏み込む。これはDH賛成論の軸のひとつ。野手9人で組んだ迫力のある打線が、それと対峙する投手の成長を促すというものだ。
 そしてファンの立場からズバリ。「観客が試合から目を離したり、あくびをしたりするような時間がこんなにたっぷり用意されているって、プロ競技としてどうなんだろうと思わない?」試合の緊張感が失われることへの警句なのだろう。ただ、「これも野球」という声も聞こえてきそうだが…。でも、参考になる意見だった。
 投手の打撃の視点からDH採用賛成の意見がある。両リーグに監督、コーチとして在籍した達川光男氏は現場の立場から「最近は打席に立つことに戸惑う選手が増えていると思う」と訴える。それは、アマチュアで9人制を採用しているのは高校野球、東京6大学野球など少数派で多くの大学生、社会人はDH制のもとで育っており、中には何年も打席にたったことがなくてプロ入りする選手がいるからだ。
 賛成派の私が懸念しているのは第16回の拙稿で述べた通り、プロ野球がすべてDH制になったら、高校野球や東京6大学は影響を受けるので調整が必要ということ。達川氏は「6大学も高校野球もDH制を導入して、統一すればいい」と大胆な提案をしている。
 「1番から9番までがガチンコ勝負になることで、試合が面白くなりファンに喜んでもらえる」。現役時代、解説の仕事で球場に来ていたノムさんを捕まえ、教えを乞うていた達川さん。DHに関して意見は真っ二つに割れたが、糸井さん同様、達川氏の賛成論の根底にあるのは、ファンが受け入れ、喜んでくれている姿だ。(続)