「野球とともにスポーツの内と外」(36)-(佐藤 彰雄=スポーツニッポン)

◎「先発100球」の是非
 いや~凄い! 新星が起こした「波」が、国内だけでなく米国にまで次々に伝わった出来事です。
 4月10日の対オリックス戦に登板した3年目のロッテ・佐々木朗希投手(20)が完全試合を達成。中6日で登板した4月17日の対日本ハム戦でも、あわや2試合連続の快挙か! と思わせる8回まで完全投球の“神技”を見せました。
 驚きはこれだけにとどまりません。MLB・エンゼルスの大谷翔平投手(27)が、4月20日(日本時間同21日)の対アストロズ戦で“魔球”と化したスライダーを駆使。6回1死まで完全投球を演じた原動力を大谷は「(朗希の)ニュースは米国でも流れていて、皆知っている。素晴らしいこと」と話し、自身かなりの刺激を受けた様子を見せていました。そればかりではありません。巨人の新外国人マット・シューメーカー投手も4月23日の対中日戦で7回2死まで完全投球の激投を演じたのです。
▽驚くべき“完全”の連鎖
 短期間のうちに各地で起きた、これほどまでの“完全”の連鎖は、そうそうあることではないでしょう。高校生の頃でしたか、確か物理の授業で「波は波動が伝わっていく現象」であり、さらに「波動は振動が次々に伝わること」と教わった記憶があります。佐々木朗希が起こした振動は、かなりの“爆発級”だったと言えますね。
 この振動を起こした張本人はまた、もう一つの問題も提起しました。8回まで完全投球を演じ、あと1回となったところで降板させた井口監督の思惑です。指揮官は「先々のことを考えて…」と語り、この件に関しては専門家が様々に議論しており、そのすべてがごもっともなのでしょうが、私は“育成段階”という言葉に思わず「巨人の星」を思い出してしまいました。
▽「育成」は中身が問題
 1960年代、週刊少年マガジンに連載された、原作・梶原一騎、作画・川崎のぼる、の人気野球漫画です。父親・星一徹が考案した記憶に残る「大リーグボール養成キプス」。全身にこのギブスを付けて日常的に特訓に励む息子の星飛雄馬。昭和を代表する鉄球、鉄バットなど当たり前のスパルタ教育の目的もまた“育成”にあり、鍛えどきにある20歳の朗希に対する“温存”~「先発100球」堅守は、果たして是か非かについて考えてしまいます。
 故事に言いますね。「可愛い子には旅をさせろ」「可愛い子は棒で育てよ」あるいは「獅子は子を産んで3日経てば谷底に落とす」などなど。厳しく言うなら、育成のプログラムに温存はないのです。(了)