「菊とペン」(49)-(菊地 順一=デイリースポーツ)

◎36年前、巨人の開幕戦は雪が降った
公園のベンチで夕刊を読んでいると、右肩に軽い衝撃を感じた。なんだ? 見るとどうやら鳥のフンである。夕刊にもはねている。左手の缶ビールは無事だった。
もう少しで顔面直撃である。犯人は鳩か。いつもエサをやっているのに恩を仇で返すとはこのことだ。いいオヤジが1人でブツブツ文句をつぶやいている。
杞憂は、中国古代・杞の国に天が崩れ落ちてくるのではないか、と心配した人がいたという説話が語源だという。とりこし苦労だ。
そうは言っても時に飛行機からの落下物はあるし、いつ何時どこかの国が打ち上げた人口衛星が落ちてこないとも限らない。
しかも、ここに鳥のフンの被害に遭ったオヤジがいるではないか。クソっ、鳥の野郎とまた毒づいてみる。
この季節、天から降ってくるもので一番迷惑なのは雪だ。東南アジアなど雪が降らない国から来た観光客は大はしゃぎだが、日本の雪国の人々には厄介な代物だ。東京も雪には徹底的に弱い。
思い出したのが1988年、巨人対ヤクルトの開幕戦だ。4月8日だった。当時は試合数が少なく4月開幕である。7日の夜から季節外れの雪が降り始め、関東地方は大雪となった。
当日、都心の積雪は9センチでこの時期としては80年ぶりの大雪だった。鉄道は大混乱、空の便も欠航が続出した。もちろん、東京の都市機能はマヒした。
当時、巨人担当である。朝、寝ぼけながら一瞬、こりゃダメだなと思ったが、アッそうだ! と思い直した。開幕戦は開場したばかりの日本初の屋根付き球場・東京ドームである。
公式戦初披露という記念日、全天候型の東京ドームはその威力・魅力を早々といかんなく見せつけたのだった。
外は氷雨が降っていた。冬到来を思わせる悪天候だったが、これほどのグッドタイミングがあろうか。予定通りに午後1時からプレーボールである。西武球場はもちろん、雪で中止となった。
試合は巨人・桑田、ヤクルト・尾花の先発で始まった。巨人はクロマティが同点本塁打を放ったが、内野のエラーもあって桑田が7回途中4失点で降板した。
巨人打線は尾花から伊東の継投の前に2対4で敗れて公式戦初披露を飾れなかった。
王貞治監督率いる巨人は「ドーム元年」を優勝で飾りたかったが、前半戦首位も後半戦で失速した。中日に優勝をさらわれて2位。王監督はこの年限りでユニホームを脱いだ。
ちなみに同日、日本ハムもロッテとの開幕戦をナイターで行った。
そうか、あれから36年か。歳月は人を待たず。柄にもなく感慨にふける。残ったビールを喉に流し込みながら空を見上げた。鳩が飛んでいないだろうな。
天は崩れ落ちなくても、鳥のフンは落ちてくる。まあ、ここはウンが付いたと前向きに考えることにした。(了)