「インタビュー」江夏豊(3 最終回)-(聞き手・露久保 孝一=産経)

◎メジャー挑戦は貴重な財産となった
 1985(昭和60)年4月、大リーグのブリュワーズを自由契約になり、江夏投手のメジャー挑戦は終わった。引退後はプロ野球解説者や評論家として活動し、時折、俳優やタレントとして出演したこともある。
―江夏さんが大リーグを去ったあと、日本人が少しずつメジャーに入り活躍する選手が増えてきました。この流れを、江夏さんはどう見ていますか?
江 夏「メジャーの中で日本の選手は、おどおどしなくなった。アメリカ人から日本の野球のことを聞かれて、日本選手が恥ずかしがらずに話すことができるのは野茂英雄、イチローのお陰です。彼らは、アメリカで成功したかったから日本を飛び出したのではない。彼らにはもともと力があった、超一流の成績を残していた。その力を十分に発揮した。さすが2人だなと思います。彼たちが向こうで成功したから、日本の野球も認められた。日本とアメリカの交流をどんどん作っていってくれた。日本人でもこんな有能な野球人がいるのだという印象を、アメリカで広げていってくれた」
―江夏さんの時代とは違って、最近、日本の多くの優秀選手が若い頃から大リーグを目指している。さらに大リーグで活躍する日本人は多くなりそうですね。
江 夏「本当に(アメリカで)やったらいい。多くのチームに入って、日本の野球をレベルアップしてほしい。私たちの時代と比べて、いまの時代は恵まれている。私は一番苦しかった時代に行った。あの当時のことを思い出す時がある。野球バカが1人、よう動いてチャレンジしたものだな、と。いい経験をしました。いい思い出であり財産であり、意義がありました」
▽野茂、イチロー、大谷に続け!
―2023年に(エンジェルスにいた)大谷翔平が、本塁打王を獲得しMVPに選ばれた。彼の活躍はどうですか?
江 夏「自分の時代に二刀流はなかった。大谷は、野手として出る時は本当に戦力としてどこまでやるか、それは難しいだろうね。彼は岩手県出身で寒い国で育った。東北地方といえば、昔は、冬場は寒くて練習はちゃんと出来ず野球は遅れていた。しかし、最近は室内練習場があり野球環境はよくなっている。それで、北の地方からも大谷みたいな優れた選手が出てくるわけです」
―日本あるいは大リーグにおいて、野球界の将来をどう見ていますか?
江 夏「大リーグにおいては、ぜひ第2の野茂、イチロー、さらに大谷に続く一流選手が現れてほしい。投げて打って走って、すばらしい二刀流が誕生しているので、彼に並ぶような選手を見てみたいね。技能が優れた魅力たっぷりの日本人プレーヤーが、日本でもアメリカでも広く活躍すれば、野球のレベルの発展につながる。そのような時代になれば、野球は本当に面白いでしょうね」(完)
〈えなつ・ゆたか〉1948(昭和23)年5月15日、兵庫県生まれ。67年、大阪学院高からドラフト1位で阪神入り。2年目に25勝で最多勝、401奪三振のシーズン最多記録をつくる。71年7月、オールスター第1戦で9者連続奪三振を達成。76年に南海に移籍し、その後、広島、日本ハム、西武で活躍し通算206勝210セーブポイントを記録。先発とクローザーで成功した唯一の投手である。日本プロ野球名球会会員