「野球とともにスポーツの内と外」(65)-(佐藤 彰雄=スポーツニッポン)
◎タコの逆襲
野球で使われる専門的な「野球用語」とまではいかない言葉には、なかなか面白いものがあります。例えば「3タコ」とか「4タコ」などの言い方。いまさら説明の必要もありませんが、3打席とか4打席でノーヒットの場合をこう言います。では、なぜそれを「タコ」というのでしょうか。さっそく調べてみました。
諸説さまざま…よくまたこういう発想が浮かぶなァ、と思います。曰く。蛸(たこ)の頭はハチマキが滑りそうなマルだろ。だから「スペル」または「ゼロ(何もない)」だよ。やや真面目に…「打者が投手に手玉に取られて骨抜きにされたことからタコ。なるほど「蛸」は「頭足類タコ目の軟体動物」と辞書にありました。まさに骨抜かれの状態-。
▽「タテ」から「タコ」へ
「タテ」と言います。同一カードの連戦で全敗したとき、3連戦なら「3タテを食らう」、4連戦なら「4タテを食らう」など、それぞれ「〇タテを食らっちゃったよ」などの言い方をします。この「タテ」はしっかり辞書に掲載されており「(数詞について)同じ相手に続けざまの連敗を喫すること」(広辞苑)とありました。その「タテ」がなまって「タコ」に…という説も。どうにも「タコ」という生き物は、常に損な位置にいるようです。そういえば釣りでも釣果がなかったときなど「タコ」の頭をイメージして「ぼうず」です。
さて…こんなタコ族の威信を懸けた戦いがありました。以前の話ですが2018年のサッカーW杯ロシア大会での出来事。まだ覚えている方もいると思いますが、タコの「ラビオ君」による勝敗予想です。タコ漁が盛んな北海道・小平(おびら)町の漁師・阿部喜三男さん(当時51)が水揚げしたミズダコの「ラビオ君」(命名は「小平」の逆読み)が、日本代表の1次リーグ3試合の結果をすべて的中させた、という“偉業?”です。「日本」と「対戦相手」の国旗、それに「引き分け」のプレートを付けたカゴのどこに入ったり近づいたりするかの勝負です。
▽実は頭脳明晰なタコ族
また2010年のサッカーW杯南アフリカ大会では、マダコの「パウル君」の活躍がありました。ドイツで飼育されていた「パウル君」は、同年のW杯でドイツの1次リーグ2勝1敗、決勝トーナメント2勝1敗、さらに3位決定戦でのドイツの勝利、と全7戦5勝2敗を的中させ、おまけに決勝戦でのスペインの勝利をも当ててしまったのです。
前述しましたが、人間社会におけるタコ族は、あまりいい言葉に使われません。「蛸入道」は「丸刈りの者をあざけって言う言葉」と広辞苑にあり、またかつて地方の炭鉱などで監禁同様にして働かせた飯場を「蛸部屋」と呼んだのは、労働者をタコと言ったから、とも記されていました。
サッカーにおける難しい戦略的駆け引きを見抜いた(かどうか)タコの慧眼は称賛すべきでしょう。ゆえに…せめて野球界にある侮蔑的な言葉はやめ、タコの勝敗予想を売り物にしてはどうでしょうか。(了)