「野球とともにスポーツの内と外」(66)-(佐藤 彰雄=スポーツニッポン)
◎「AI審判」の可能性について
スポーツ各分野における「判定問題」は、ある意味で“永遠”の課題かもしれません。出来事を裁く審判が、人の目と感覚による判断で行われるなら“誤審”の危機は紙一重で常につきまとっているからですね。
記憶に残る誤審騒動に2000年シドニー五輪男子柔道100キロ超級決勝戦があります。日本の篠原信一がフランスの強豪ドイエと対戦。ドイエの内股を篠原が内股透かしで応じ、同体ながら一瞬早く背中から落ちるドイエを見て勝利を確信しましたが、主審はドイエに有効を与え、篠原は健闘むなしく悔しい敗戦となりました。後にこの判定は、国際柔道連盟により「ドイエの有効は誤審」との見解が発表され、この世紀の大誤審を契機に柔道界は2007年からジュリー(審判委員)がビデオカメラでチェックを行うシステムが導入されています。
▽「三苫の1ミリ」が示した驚愕
“物言い”がついた大相撲の微妙な勝負にビデオのスロー画像が“決め手”として効力を発揮しているように昨今のスポーツ各分野での「ビデオ判定」は“人の目”に対する“機械の目”として重要視されています。サッカーにおけるVAR(ビデオ・アシスタント・システム)が示した画像に驚かされたのが「三苫の1ミリ」でした。2022年のW杯カタール大会でのこと。1次リーグの日本vsスペイン戦で日本代表MFの三笘薫(ブライトン)がゴールライン際で折り返したボールが、ギリギリのインだったことをVARが証明した出来事です。人の目では到底わからない1ミリの判定-。
選手個々がかつての“汗と涙”の時代を経て今、科学トレに移行して培った体力や技術を駆使するなら、そのプレーで起きた判定も、審判する人の目をAI(人工知能)などのテクノロジー(科学技術)がカバーする必要が出てきます。では判定に対するトラブルが結構多いプロ野球界はどうでしょうか。
資料をひも解くと日本のプロ野球界は2010年に本塁打について審判が確認するためのビデオ判定が導入され、その後、2018年には監督の異議に対してのビデオ判定「リクエスト制度」が設けられるようになっています。MLBでは日本に先駆けて前者が2008年、後者が2014年にそれぞれ設けられた、とありました。
▽不服を受け付けない機械判定
そうした中での興味は、ストライク&ボールを判定する「AI審判」の可能性です。近未来の社会生活において家事をこなす優秀な「AIロボット」を各家庭に1台などまことしやかに電気洗濯機や電気冷蔵庫が出現したときのように話題となる時代。野球という人気スポーツにそれが出てきても不思議ではないでしょう。
AI搭載の「ロボット審判」は、米マイナーリーグで、あるいは韓国のプロ野球界で既に実験的に導入されているとのことでした。米国の場合は①AIの判定をそのまま審判がジャッジする②審判が判定し抗議が出ればAI判定で審議する-などの方法が模索されているそうです。
そんな日が当たり前になるのかどうか。まあ、しかし、スポーツは人と人がガチンコでぶつかり、勝負を競うことに醍醐味があります。ケンカ腰の抗議も人の感情が溢れ出すからのこと。機械の判定によって人々の熱狂が損なわれるなら熟考が必要ですね。(了)