「野球とともにスポーツの内と外」(68)-(佐藤 彰雄=スポーツニッポン)

◎青春の光と影

 2024年の世相を一字で表す漢字は「金」となりました。12月12日、京都市の清水寺で行われた年末恒例の森清範貫主よる和紙への力強い揮毫(きごう)。なるほど…夏のパリ五輪での日本勢の活躍、MLBでは大谷翔平投手(30=ドジャース)によるメジャー史上初となる「50-50」(54本塁打-59盗塁)の金字塔達成など。人々に勇気と感動を与える「金」が弾みました。もっともこれらは「表」の話。表には「裏」もあり、そこでは政界の裏金問題や高額報酬・即金で誘う「闇バイト」事件も暗躍しました。金が持つ光と影-。

 さて野球に視点を移し…MLBは12月9日(日本時間同10日)、米テキサス州ダラスでウインターミーティングを開始しました。選手個々への交渉期間となる、年をまたいだ米東部時間2025年1月23日午後5時(日本時間同1月24日午前7時)までの間、各球団は「金の発掘」を胸に思惑が乱れ飛ぶ日々が展開されます。

▽全米の熱視線を浴びて…

 大谷の活躍で今やビッグな市場となった日本球界。今オフ、その去就に最も高い関心が寄せられているのが佐々木朗希投手(23=ロッテ)です。佐々木は2001年11月3日生まれの23歳。岩手県陸前高田市出身。岩手・大船渡高から2019年のドラフトでロッテの1位指名を受けて入団、2024年シーズンで5年目を終え、ポスティングシステムの申請が受理されMLBの道に方向を切り替えました。以後、新聞各紙の佐々木報道はいささか過熱気味。当初の「全30球団が熱視線」から始まり、それが落ち着いても12月17日付のスポニチ本紙は、米スポーツサイトによる「10球団の移設先」を報じ、佐々木自身も既に「5球団と面談を行った」という近況が掲載されています。

 確かにこの23歳は“怪物級”なのでしょう。20歳5か月の史上最年少で完全試合(2022年4月10日=対オリックス戦)を達成。最速165キロの剛速球を武器に13者連続奪三振や1試合19奪三振などの輝かしい記録を達成しています。その数字だけを見れば“垂涎の逸材”であることは間違いないでしょう。

▽強い体があってこその技術

その一方、大丈夫かなァ、という不安材料も抱えます。ロッテ5年間でフルシーズン投げられず、先発ローテーションを守り切れなかった体力的な弱さ。国内に時差もある広大な全米各地を転戦するMLBにあっては、試合の“技”以外の“心・体”にのしかかるものが多く、心・体が万全で技が生きるのであるなら、まず体が強靭であることが第一です。大谷もそうですが、米男子ゴルフ界で活躍する松山英樹(32=LEXUS)の体も大谷に負けない凄さがあります。彼らは技術以前にまず、全米で戦える体を持っているのですね。

 佐々木は華やかな話題に包まれて華やかな舞台に立つことでしょう。が、この怪物右腕がまず克服すべきは、米国の環境、慣習にどう溶け込むかでしょうね。それが出来ないと持てる技術もしぼんでしまいかねません。朗希の持つ光と影-。それがこれからにどう影響するかです。(了)