「野球とともにスポーツの内と外」(69)-(佐藤 彰雄=スポーツニッポン)
◎スポーツ選手の社会貢献
MLBで活躍する菊池雄星投手(33=エンゼルス)が、野球人口の底辺拡大に一役買うことになりました。菊池は岩手県盛岡市の出身。昨年(2024年)11月17日、自身が手がけた屋内複合野球施設「King of the Hill(K・O・H)」を岩手県花巻市の母校・花巻東高近くにオープンしました。
施設の広さは約1400平方メートル。冬期間の降雪期でも練習を続けることが出来る屋内型。設置された数々のトレーニング機器も、菊池が米大リーグ経験で得た最新機器類が備えられているとのこと。施設名の「K・O・H」は「マウンドの王」-。
▽菊池が取り組んだ社会貢献
この施設がこのほど東北では初の「花巻市女子野球タウン」に認定され、調印式に出席した菊池が語ったこんな言葉が報じられています。「野球が好きなお母さんが増えれば、野球に興味を持つ子供も増える。女子野球の発展こそが野球人口増加のカギを握る」と-。菊池は常々「花巻や岩手に野球で貢献したい」と思っていたそうでそれが実現できたということですね。これまで得たものの還元、社会貢献です。
還元とか社会貢献については、言葉では簡単に言えても、実現に向けてはなかなか難しいところがありました。還元という言葉は辞書に「根源に復帰させること」「元に戻すこと」とありますが、日本人は例えば「慈善」を「偽善」として「持てる者の驕り」あるいは「傲慢」であるかのように捉えてしまう土壌が古くからあり、なかなか素直に行動に移せない傾向があります。その点、欧米人はそれをステータス(社会的地位)と割り切り積極的です。
ときの流れは、日本人のそうした旧弊を次第に覆していきます。日米野球界で活躍し、このほど日米の野球殿堂入りを果たしたイチロー氏(51=本名・鈴木一朗)や大谷翔平投手(30=MLBドジャース)、あるいはプロゴルフの松山英樹(32=LEXUS)やサッカーの三苫薫(27=ブライトン)ら世界を舞台とするその道の第一人者が出現したことで、彼らが次に求める還元を周囲が違和感なく受け入れる社会が出来上がり始めたのですね。その道で名を成したスタープレーヤーたちの恩返しです。
▽還元がもたらす子供たちの夢
世界のトップに位置するアスリートたちの社会への影響力は大きいものがありますね。その第一は“子供たちへのメッセージ”でしょうか。現役引退後のイチロー氏が日本全国の高校球児、学童野球や女子野球を熱血指導している姿は知られているし、大谷が日本全国の小学生たちに私財で野球のグラブを贈ったことは大きな話題となりました。大谷はまた、米カリフォルニア州ロサンゼルスの山火事の被災者支援に向けて50万ドル(約7800万円)を寄付してもいます。
松山が取り組み始めたジュニアへの指導・育成。三苫の募金・寄付活動もよく知られたことですね。そうしたスポーツ各界の賢者たちの行為が少年たちに与える影響は少なくないことでしょう。どちらかというと身近になかった寄付活動など日本人の社会貢献への意識が、世界で活躍するアスリートたちによってもたらされるなら、日本人の心にもう一つ、新たな広がりを芽生えさせるかもしれませんね。(了)