◎バットはバッターの命(菅谷 齊=共同通信)
“21世紀のバット”が登場した。その名は「トルビート(魚雷)バット」。
大リーグで話題になり、日本の選手が飛びついた。ヤンキースが開幕3連戦で、1試合9本塁打を含む計15本塁打を記録して一気に知られるようになった。形状は芯の部分がもっとも太く、重さを軽減するために先端を細くしてある。
バットは言うまでもなく“バッターの命”である。その働きで成績も年俸も上がる。このバットに対する選手の神経の使い方は半端ではない。ただ握って持ち打席に立ち、投手の速球を打つわけではない。
打者がもっとも気にかけているのが重さの変化。日本は湿気があるので知らず知らずのうちに水分を含んで重くなる。かつてはこれを避けるために、愛車のトランクルームに入れて置いたり、自宅の通気のいいところに立てかけたりした。その後、球団が球場のロッカールームに乾燥機を設置し、各選手のバットを保管した。
日米4300超安打のイチローは1グラムの変化が分かった、という話をバットメーカーの職人の話を伝え聞いたことがある。バットを自由にコントロールできる打者ならではのエピソードで、多くの実力選手も理解しただろうと思う。
日本球界でバットといえば、オールドファンを熱狂させた阪神の藤村冨美男が使った“物干し竿”の異名がついた長さ96㌢の長尺バット。ゴルフクラブのドライバーをヒントにしたもので、典型的な遠心力でスタンドへ運ぶ打法だった。
小柄な打者は全体的に太いタイ・カッブ型を使った。阪急の福本豊もそんなバットで練習し、強く叩くことで2500超安打を重ねた。むろんバットは打者の好みなのだが、一流選手の話は貴重である。
長嶋茂雄が素振りをくれて打席に立った姿の格好良さの一つにバットがあった。手に持っていたのは大リーグで使っていたルイスビル製。打者のだれもが憧れたバットで、ほんとうに長嶋は“絵になる選手”だった。(了)