「大リーグ見聞録」(91)-(荻野 通久=日刊ゲンダイ)
◎アメリカ大統領と野球
▽トランプの口出し
何ごとにも首を突っ込むトランプ大統領が、とうとうMLBの野球殿堂にも口を出してきた。8月24日(現地)、通算354勝のロジャー・クレメンスとゴルフをしたあと、「間違いなく史上最高の投手の一人。今すぐ野球殿堂入りさせろ」とSNSに投稿した。
トランプは3月にも通算最多安打のピート・ローズを「(4256本の)野球史上圧倒的な安打を記録。殿堂入りを認めろ」と吠えた。
クレメンスは薬物疑惑、ローズは野球賭博で殿堂入りを果たせないまま、資格を失っている。この2人、ともにオハイオ州出身。オハイオ州といえば、大統領選で毎回、民主党と共和党が接戦となる「激戦州」のひとつ。共和党の次期大統領候補と言われる、バンス副大統領の選挙区でもある。
同じ薬物疑惑で殿堂入りしていない、バリー・ボンズは記録(シーズン最多の73本を含むMLB最多の通算762本塁打)だけなら2人に勝るとも劣らない。だが、ボンズは民主党が圧倒的に強いカルフォルニア州出身で黒人。トランプの「クレメンス、ローズ殿堂入れろ」発言は政治的、人種的な思惑、偏見があるようにも思える。
▽党派を超えた始球式
ゴルフ好きで知られるトランプだが、野球好きとはあまり聞いたことがない。その証拠に歴代大統領の恒例行事とも言える、大リーグの始球式をやったことがないからだ。
米大統領による始球式は1910年のウイリアム・H・タフト大統領が最初。それ以来、歴代大統領は共和、民主の党派を超えて、公式戦で在任中に一度は「ファーストピッチ」を行ってきた。第二次大戦中もルーズベルト大統領がやっている。スポーツ好きを自認していたオバマ大統領は8年の任期中、オールスターを含め3度。私も2009年のセントルイスでの球宴の始球式を取材した。
1984年4月2日、レーガン大統領は開幕戦の始球式のため、わざわざワシントンからボルチモアまで駆け付けた。オリオールズ対ホワイトソックス戦が行われるメモリアル・スタジアム(当時)に、試合開始約1時間半前に到着。セレモニーで低めにスライダーを投げ、ファンの喝さいを浴びた。その後はスタンドでホットドッグに頬張ったと報じられている。
そんな伝統を途切れさせたのが2016年に当選したトランプ大統領。前回の任期中も、そして2期目の今回もやっていない。
国内の分断が激しいアメリカ。大統領が大観衆の前に姿を晒すのはリスクがある。警備も以前にもまして厳重になり、費用もかかる。それがやらない理由かもしれないが、分断を煽ってきたのはトランプだろう。野球はアメリカ人の「国民的娯楽」。大リーグの始球式は、国民の融和に少しは役に立つかも知れない。
ちなみにタフト、レーガンはともに共和党のプレジデントである。(了)
