「大リーグ ヨコから目線」(荻野 通久=日刊ゲンダイ)
◎“ダフ屋”アレコレ
▽「チケット買うのか」と、いきなり…
大リーグを取材、観戦していると、ときに思わぬことに出くわすことがある。
2年前の7月、友人と2人でロサンゼルスのドジャースタジアムにドジャースの試合を見に行った。平日だったが、試合はデーゲームで行われた。試合後、チームが遠征に出るためだ。
チケット売り場で料金表を見ていると、若い男に話しかけられた。
「試合を見るのか?切符を買うのか?」
と聞かれた。日本人と分かったかどうかは不明だが、旅行者が観戦に来たと思ったようだ。
「そうだ」
と答えると、ポケットから切符を取り出した。それも2枚。
一瞬、ダフ屋かと疑った。ところが男は
「お金は要らない。切符が余ったので使ってくれ」
という。そんなうまい話があるのか、ロスで狐に騙されているのか、と思った。
▽IT会社の福利厚生による野球観戦
理由を聞くとこう言うではないか。
「きょうは会社の福利厚生の一環で、社員みんなでドジャースの応援に来ている。ところが、用事ができてどうしても来られなくなった社員がいる。チケットをムダにしたくないので使ってくれ」
そしてこう笑って付け加えた。
「その代り、ドジャースを応援してくれよ」
よく見ると男は20代でこざっぱりした格好をしている。とてもダフ屋には見えない。ありがたく切符をいただくと、指定の外野席に向かった。そこには会社のロゴの入ったドジャーブルーのお揃いの帽子をかぶった20~30人の男女の若者がいた。
席に座ると、幹事なのか、私たち2人にも帽子をくれた。しばらくすると、スナック菓子も持ってきてくれた。
聞くと、IT関連の会社で、年に何回か、こうした催しを行うそうだ。若者がほとんどなのも納得した。ドジャースの勝敗は忘れてしまったが、みんなビールを飲みながら選手に声援を送り、大騒ぎしていた。
日本では社会人野球の都市対抗や日本野球選手権があり、企業がチームを抱えてアマ野球をバックアップ。チームが大会の代表になれば、社員総出で球場に応援に行く。アメリカではこうした形で地元企業が「オラがチーム」を応援しているようだ。 (了)
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今年初めにふさわしい、いい話ですね。
楽しく読ませていただきました。
また、折を見てのぞいてみます。