「大リーグからヨコ目線」(18)-(荻野通久=日刊ゲンダイ)

◎球宴のロッカーは一大サイン会

今年のオールスター戦のファン投票のナ・リーグDH部門でリストアップされていた大谷翔平(エンゼルス)は落選となった。3位とは約20万票差で4位。決戦投票に残れる上位3人に入れなかったからだ。

▽合理的なサイン交換会

オールスターというくらいだから、出場選手はいずれもシーズンで活躍中のトップクラス。実はその選手たちが毎回、球宴の試合前にロッカールームで一大サイン会を行っている。
 2010年(エンゼルスのアナハイムスタジアム)の球宴で、初めて選手ロッカーに入れる取材パスをもらった。ナ・リーグの練習の後に、選手を取材しようとロッカーに入っていった。すると大きな机の上にボールが何十ダースと積み上げられ、バットが何十本も並べられている。サインペンがあちこちに転がっている。
 シーズン中の試合前、選手はロッカーでおしゃべりをしたり、雑誌を読んだり、音楽を聞いたりしている。そうすることで気持ちをリラックさせたり、集中させたりする。オールスター戦でも同じようなシーンが見られると思っていただけに、まさに異様な光景だった。
「何だ、これは!」
 よく見ると練習を終えた選手がせっせとペンを動かしているではないか。何十というボールとバットにサインをしているのだ。オールスターのTシャツにサインをしている選手もいた。ひょいと横を見るとロッカーの隅に大きな段ボールがいくつも置かれていた。
 「選手は一体、何をやっているのか?」
 と近くにいた関係者に聞いた。
 「選手が互いにボールやバットにサインをしているのだよ。いちいち頼んでもらうのは面倒だし、時間もかかるからね」

▽テーブルにボールとバットの山

その後、何度もオールスター取材に行ったが、この光景はどこでも同じだった。
 オールスター戦出場は選手にとって大変な名誉であり、野球殿堂入りなどの評価の対象にもなる。もちろん、一生の思い出にもなる。一緒に戦った選手たちのサイン入りのボールやバットはいい記念品になるはずだ。あるいは家族や親しい友人から、サインボールをもらってきて、と頼まれている選手もいるかも知れない。大きな段ボールはそうしたサインボールやバットを送るためのものだろう。
 大谷は昨年、「ベーブ・ルース以来の二刀流」として大活躍。ファンや選手の気持ちを鷲掴みにして新人王にも輝いた。今年は出場を逃したが、来年、球宴に選出されたらア・リーグの試合前のロッカーは大谷のサイングッズであふれるかも知れない。(了)