第18回 栄光の日々(島田健=日本経済)

◎ロックで振り返る人生の光と影

▽大御所が熱唱

ブルース・スプリングスティーン(1949年生まれ)といえば、いまや米国ロックの大御所だが、1984年(昭和59年)に発表されたアルバム、「ボーン・イン・ザ・USA」は、全世界で2000万枚が売れる大ヒットとなり、そのうち7曲がシングルカットされた。85年にリリースしたこの唄もビルボードで最高5位まで上がった。
 野球選手に始まって、ガールフレンド、父親、そして自分の過去の栄光と今を見つめる歌詞だが、ライブでは繰り返しの部分を何度も熱唱するなど、本人も好きな唄らしい。

▽高校時代のビッグなプレーヤー

「高校時代、ビッグな野球選手が友達だったんだ すごい速球を投げて 見る者に自分が愚か者と思わされた」「ある夜 そいつとバーで会った 彼は出て行くところで 俺は入るところ 中で飲むことになって 話したんだけれど中身はこれだけ」「栄光の日々 でもそれはすぎていくだけ 栄光の日々 それは若い娘のウインクほどの束の間 栄光の日々 栄光の日々」

▽モデルは実在

のちにスプリングスティーンが明かしたが、その選手とは彼とリトルリーグ時代から一緒だったジョー・デプーだった。小さい時からいい投手で、高校時代にドジャースのトライアウトに招待されたものの、プロ入りはできず大学に進学した挫折の経験を持つ。野球では全く芽が出なかったロック歌手に強烈な印象を与えた選手だった。
 モデルと明らかになったところでデプーも伝説の人となった。歌手は再会を希望したが、なかなか実現できず、彼ら二人が会えたのは何とアルバム発表から21年後の05年だった。

▽年取ったら自分もそうなる?

スプリングスティーンは自分のこととして「今夜も馴染みの店に落ち着いて たらふく飲もうと考えている そして年をとっても (昔のことを)思い巡らすのはしたくないと思う でもきっとしてしまうんだろうな」「ただ、振り返って 昔の小さな栄光のかけらを掴もうとする でも時間は飛ぶように去り 何の称号も残してくれず 栄光の日々の退屈な話だけが残る」と歌う。
 しかし、ここだけは現実と違うようだ。69歳の今も現役を続けている。別名は“ザ・ボス”。彼にとって栄光の日々は過去でなく今も続いている。検索はGlory Daysで。(了)