「“職人芸”が輝く場をなくしたくない」-(佐藤彰雄=スポーツニツポン)
▽にぎわう居酒屋の片隅で友人とスポーツ談義-。
スーパースターの資質とは? その魅力とは? の論議となりました。
「第一に“非日常性”だな。ボクらファンの日常的レベルを超えて、ここでやってくれ、という期待に応えてくれる人だね。つまり夢を叶えてくれる人…かなァ」と友人。確かにプロボクシングでいうなら、WBA&IBF世界スーパーバンタム級統一王者の井上尚弥(大橋)やWBA世界ミドル級王者の村田諒太(帝拳)は、それを叶えてくれているし、元6階級制覇王者のオスカー・デラホーヤ(米国)やマニー・パッキャオ(フィリピン)ら世界のスーパースターと呼ばれた人たちは、たいていそれをやってくれています。
世界戦12ラウンド。中盤の6~8ラウンドあたりにヤマ場が来るのは、ちょうど疲れがたまる胸突き八丁のころ。そこで気力を絞れるかどうか、一歩前に出られるかどうか、その根性が勝負を分けます。
▽夢を託せるかどうか
殴って倒し合うボクシングは、危険回避のルールはあっても、常に危険と隣り合わせで戦っています。それらを克服して栄光に進む人間ドラマにファンは自分の夢を託し声援を送ります。
友人が言いました。
「今の時代がどう否定しようと日本人は『あしたのジョー』や『巨人の星』など、あの熱血スポ根ものが大好きなのさ」
ウ~ン、出ました。「巨人の星」ねェ~。星一徹&飛雄馬という熱血父子を生み、血のにじむ努力で大リーグボールを習得させた原作者の梶原一騎氏は、今のプロ野球界をどう評価するでしょうか。
▽職人芸が失われる時代
MLBがこのほど「ワンポイント禁止」を決めたのは周知のことです。「投手は最低3人の打者と対決するかイニングの終わりまで投げなくてはならない」という改訂ルール。
もし梶原氏が「ワンポイント・リリーフ」投手をテーマにスポーツ漫画に取り組んだなら、3球以内でズバッと料理してしまう“一人必殺術”を持った“左キラー”投手の究極の職人芸を描くに違いありません。つまり、プロの世界なら、それはそれでスーパースターになり得る可能性がありながら、あえてMLBはそれを封印してしまうのです。その理由が「試合時間を短縮させるため」というのだから何をかいわんやですね。
高校野球界は、今春のセンバツから1人の投手について「1週間で500球」という球数制限を導入します。高校野球界の教育的指導はともかくプロ野球界も、特にMLBは投手の酷使、消耗度を理由として球数制限については神経質なほどです。
日本のプロ野球界もそれらに追随するのかどうか。時代の流れを経て年々、野球を含めた団体競技での“分業化”が進んでいるようですが、ならば“これぞプロ”という専門職が輝く場を潰してしまわないよう願うばかりですか…。
(了)