「大リーグ ヨコから目線」(31)-(荻野 通久=日刊ゲンダイ)

◎オールスター ハプニングの思い出
▽史上2度目の中止
 大リーグ機構は7月3日(現地時間)、正式に今年のオールスター戦(7月14日、ロサンゼルス・ドジャースタジアム)の中止を決めた。
新型コロナウイルス・パンデミックで、かねてより7月14日の実施は不可能と判断されていたが、一部にワールドシリーズの後に行ってはどうか。中止の場合、ドジャースタジアムでの開催をどうするのか、で議論が続いていた。それが今年は中止、ドジャースタジアムでの開催は2022年に延期することで結論に達した。
メジャーの球宴は1933年に第1回大会が行われ、中止になったのは第二次世界大戦中の1945年の一度だけ。まさに異例の事態となった。
 私は長年、オールスターを観戦、取材しているが、何度か異例の事態やハプニングに出くわしたことがある。
2002年はミルウォーキー・ブルワーズの本拠地ミラーパークが舞台。試合はシーソーゲームとなり延長戦に。7-7で11回の攻防が終わったとき、突然、試合の引き分けが宣言されたのだ。当時、雨が降っていたが、ミラーパークは屋根付き球場だ。
「ア・リーグ、ナ・リーグとも全選手を起用してしまった。決着がつくまで試合を続けたら、交代ができないので選手の健康、体調が心配だ」
とセリグ・コミッシショナー(当時)は説明したが、大リーグは白黒がつくまで戦うのが鉄則。ファンはブーイングとともにグラウンドに紙コップやクッションなどを投げ込んだ。ファンが物を投げ込んだのを見たのは初めてだ。
当時は両軍各30選手だったが、これを機に出場選手が増えた。
08年はその年限りで解体されるニューヨークのヤンキースタジアムで開催された。こちらも延長戦になったが、15回裏に一死満塁からヤング(レンジャース)の犠飛でア・リーグがサヨナラ勝ちした。延長15回は史上最多タイ。試合時間4時間50分は史上最長。試合終了は翌日の午前1時半だった。
▽人気女優登場に大興奮
球宴ではプレスに食事が提供される。ヤンキースタジアムではハンバーガーや果物、サラダ、スイーツなどの入ったボックスが配られた。他に記者席にスナックやホットドッグなどが無料で用意された。
9回で終了すれば問題はなかったろうが、延長に入ってしばらくすると食べ物は報道陣によってすべて食べ尽くされてしまった。大きな冷蔵庫に山ほど入っていた飲み物も品切れに。倉庫にはボトルの飲み物があったが、担当者は帰宅しているし、勝手に取りにはいけない。結局、生唾を飲み込みながら、「どっちが勝ってもいいから、早く終わらないか」と願ったものだった。
この試合では3回裏が終わったとき、グラウンドに一人の女性が登場。スタンドから大歓声があがったのが忘れられない。
その名はサラ・ジェシカ・パーカー。テレビドラマ「THE SEX AND CITY」の主演キャリー・ブラッドショー役で一躍人気女優になっていた。ニューヨークには同ドラマの舞台を巡るツアーがあるほどだった。
スタンドのファンばかりか、両軍の選手も大興奮。拍手と声援で球場は大盛り上がり。ちなみに私も大ファンだったが、いたのは特設の外野スタンドの記者席。パーカーの姿は豆粒くらいにしか見えなかった。慌てて写真も撮ったが、残念ながらだれが写っているのか分からないほど小さい。一生に一度の生パーカーを間近で見るチャンスを逃してしまった。
ちなみにパーカーは乳がん撲滅を訴えるキャンペーンのために来場。乳がんの早期発見早期治療を訴えた。(了)