「大リーグ ヨコから目線」(35)-(荻野 通久=日刊ゲンダイ)
◎仰天続きのオフの監督人事
▽サイン盗みも喉元過ぎれば
今年の大リーグのオフの監督人事には驚かされ放しだった。
まずは76歳のトニー・ラルーサがホワイトソックスの監督に就任した。ラルーサは2011年にカージナルスでワールドシリーズに勝って引退。その後はレンジャースなど3球団でフロント入りしていた。それが10年ぶりのカムバックだ。
メジャーのHPによると、76歳は11年にマーリンズを率いたジャック・マキーオン監督の80歳に次ぐ史上2番目の高齢という。
さらにレッドソックスはサイン盗みに関与していたとして、今年の1月に監督契約を解除したアレックス・コーラを復帰させた。そしてタイガースは同じ理由で1月にアストロズ監督を解任されたA・Jヒンチを指揮官として契約した。
2人は昨オフに長年に渡って行われていたスパイ野球が発覚したアストロズのコーチと監督を務めていた。そのためMLB(大リーグ機構)から1年間の職務停止処分を受けた。その処分が解けたとたんに現場復帰だ。
ラルーサはワールドシリーズ3回優勝(歴代6位タイ)、通算2728勝(歴代2位)の名将。14年には野球殿堂入りもしている。
コーラは2018年にレッドソックスを、ヒンチは2019年にアストロズを世界一に導いている。専門家やファンからは「10年前とは野球が変わっている」「スパイ野球の監督と就任させるとは」などと厳しい意見もあるが、監督としての手腕は高く評価されていればこそだろう。
▽チームの功労者の再就職ポスト
プロ野球ではちょっと考えられない。選手の監督に対する考え方の違いもあるが、メジャーリーグでは監督が「専門的な職業」として確立されているからだろう。
今年の年間最優秀監督(MOY)がそのことを象徴している。今年、ナ・リーグのMOYに選出されたのはマーリンズのドン・マッティングリー監督。昨年105敗(57勝)したチームを31勝29敗と勝ち越させ、ポストシーズンに進出させた。
マッティングリー監督は現役時代、ヤンキースで活躍。1985年にはMVPに輝いている。長い大リーグの歴史でもMVPとMOYの両方を受賞したのは同監督がわずか5人目だ(他はジョー・トーレ、ドン・ベイラー、ダスティ・ベーカー、フランク・ロビンソン)。
プロ野球はどうか。今季だけでも巨人・原、DeNAラミレス、広島・佐々岡、ソフトバンク・工藤の4監督が現役時代、MVPを獲得している。すべてチームのOBで、ラミレス監督以外は指揮を執る球団でのMVPだ。
現役時代、プレーしたことのないチームを指揮したのは楽天・三木、日本ハム・栗山、オリックス・西村の3監督だけ。要するに監督はチームの功労者の「再就職のポスト」になっているとも言える。もちろん、選手としても活躍し、監督としても優秀という例がないわけではないが、それはあくまで幸運なケースだろう。
ちなみに今年、大リーグでア、ナ両リーグでMOYの候補になった6監督のうち、3人はメジャーリーグでの選手経験がなかった。ホワイトソックスのR・レンテリア監督はチームをポストシーズンに進出させたにも関わらず、ワイルドカードでアスレチックスに負けたため、解任されている。(了)