「野球とともにスポーツの内と外」-(佐藤 彰雄=スポーツニツポン)

◎惨敗・巨人の“心的外傷”
1990年代後半-。
格闘家の桜庭和志(当時=高田道場)は、総合格闘技リング「PRIDE」の舞台で我が家の春を謳歌していました。
ヒクソン・グレイシー(ブラジル)を代表とするグレイシー一族の兄弟やいとこたちとの対戦をことごとく撃破。“グレイシー・ハンター”としてファンの熱狂的な支持を得ていたのです。
そこに現れたのがブラジルの刺客ヴァンダレイ・シウバでした。無名ながら“戦慄(りつ)のひざ小僧”などという怖い異名を持つ打撃系ファイター。注目の初戦、桜庭はこのシウバの打撃でボコボコにされ、まさかの流血惨敗を喫してしまいます。
そして…リベンジを期した再戦でも桜庭は、今度は投げ技で左肩を脱臼させられ試合続行不可能状態。ドクター・ストップによるみじめな敗北となりました。
▽惨敗で生じたトラウマ
主役の座の交代を告げる結末に桜庭はその後、なかなか立ち直れず、勝ったり負けたりの戦いを余儀なくされてしまいました。
【心的外傷】=外的・内的要因による肉体的、及び精神的な衝撃を受けたことにより、それにとらわれてなかなか脱却できない状態を言う。
【トラウマ(trauma)】=精神的外傷。後遺症を残すような激しい精神的ショック。
話は変わりプロ野球の日本シリーズ-。
セ・リーグ王者・巨人の惨敗に、かつて目撃した桜庭のどうしても勝てない姿がダブりました。パ・リーグ王者ソフトバンクとの対戦。19年4連敗で敗戦。リベンジを期した20年、今度も4連敗で敗戦。これはもう内面に抱えてしまったトラウマによるもの以外、考えにくい現象のように思えます。
第1戦5-1、第2戦13-2、第3戦4-0。“シウバ”ソフトバンクの果敢な打撃は、軽いジャブから強いストレートまでを交えて厳しく桜庭“巨人”を追い詰めました。
追い込まれ、後がなくなったピンチに巨人ファンは不甲斐なさに怒り、しかし、一縷(る)の望みをかけて声援を送り続けました。
▽見えない重圧にたじろいだ
第4戦は初回、巨人が初めて先制点を奪い、いい流れになりそうな感じもしましたが、その裏、ソフトバンクは柳田悠岐外野手の逆転2ラン本塁打が飛び出し、さらに2回には甲斐拓也捕手が2ランを左翼席に叩き込み追加点。まだ序盤戦での攻防ながら、ソフトバンクの勢いを思えば、早くも“勝負あり”の2本と言えたでしょうか。ソフトバンク4-1の勝利。
勝負が終わり、スポニチ本紙のコラム「視点」でスポニチ本紙の評論家を務める東尾修氏は、パの投手陣の質の高さ、層の厚さを指摘、巨人の惨敗を「力負け」としました。
他方、第3戦を終えてソフトバンクが王手をかけた日、スポニチ本紙評論家の中畑清氏は、同紙のコラム「視点」で「(巨人が)何かをしようにも(ソフトバンクが放つ)目に見えない重圧に絡めとられ“受け身”にさせられてしまっていた」と書いていました。
そこに…前述した桜庭の心理と巨人がダブります。
一般的にトラウマの克服は、考えないようにすることではなく、あえて考え、なぜそうなったかの原因を明確にすることのほうが効果があるとも言われます。
さて…巨人の日本シリーズ初となる2年連連続の4連敗、計8連敗のツケは重くのしかかりそうです。(了)