「野球とともにスポーツの内と外」(37)-(佐藤 彰雄=スポーツニッポン)

◎「小さな大打者」たり得る資質は?
 なぜか気になって毎朝、朝刊スポーツ面のプロ野球「西武」の成績に見入ってしまいます。試合の結果を示すテーブルに「⑥(ショート)滝沢」の名。打率も規定打席には足りないものの3割弱を維持、しっかり先発陣に名を連ねています。「オッ、やってるじゃないか」とエール…。
 2003年(平15)8月13日生まれ。新潟・上越市出身。18歳。滝沢夏央(なつお)内野手の名が突然、クローズアップされたのは5月14日の楽天戦(ベルーナドーム)でした。7回に値千金の2点適時三塁打を放つなど、この試合2安打と暴れ、チームの勝利に貢献。並の選手なら“並みの立役者”で終わっていたでしょうが、滝沢は2021年に「育成ドラフト」2位で西武に入団したルーキー選手で前日の5月13日に支配下登録されたばかり。加えて身長1メートル64の現役最小兵。気のせいかユニホームがダブついているように見える小さな選手の小気味よさに面白さを覚えました。
▽現役最小兵の活躍に注目
 “小さな大打者”といえば、かつてヤクルトで活躍した身長1メートル68の若松勉外野手(現在75)が思い出されます。北海道・留萌市出身。1970年のドラフト3位で社会人「電電北海道」からヤクルト入団。留萌中時代にスキーで鍛えた強靭な下半身を武器に入団翌年の1971年、規定打席未満ながら打率3割台をマーク。以後は常に首位打者戦線に立ち1978年、チームのリーグ初優勝、日本シリーズ初制覇に貢献しています。
この“小さな大打者”は、素朴で口下手でエラぶらず、めっぽう人がよく、大阪遠征のときなどは焼き肉のメッカ「鶴橋」(大阪市天王寺区)に担当記者を誘い、高架下の煙だらけの焼き肉店でひとときを過ごしながら「正しい挨拶の仕方を教えてくれよ」など記者連中に逆取材したりしていました。体の小ささゆえに当初、プロ入りに逡巡した若松さんは、この世界でやっていく上で大事なことは、小さい体を生かしたスビードと視野を広げる、つまり自分の持ち味を生かすことと言い聞かせたそうです。若松さんならではの広角打法が、大打者としての道を切り開いたことは周知のことです。
▽スピードと広い視野を武器に
 小さな体と言えば、このほど米女子プロバスケットボールの最高峰WNBAの「ワシントン・ミスティックス」に入団した町田瑠唯(29)がいました。1993年(平5)3月8日生まれ。北海道旭川出身。大柄な選手が揃うプロバスケットの世界にあって身長1メートル62の町田の武器は、こちらもスピードと展開を読む視野の広さにあります。
若松さんにしろ町田にしろ、小さな体で過酷なプロの世界で生き残り、それだけではなく、さらにトップを目指す小兵の共通点は、劣る体格をカバーするスピードと広い視野からの機転、でしょうか。滝沢はまだまだこれからの選手ですが、こういう選手だからこその伸びしろに期待してしまいます。ぜひとも将来の“小さな大打者”に向かって突き進んでいってもらいたいものです。(了)