「いつか来た記者道」(51)-(露久保孝一=産経)
◎「高校野球をやりたい」1年生増えた
2022年夏の甲子園高校野球は、「無事に」に済んだ。無事にと書いたのは、新型コロナウイルス感染者数が第7波という大幅増加の中で開催されたにもかかわらず成功裡に幕を閉じたからである。
今大会から観戦は全席指定とし、3年ぶりに一般客を入れて実施された。コロナ禍前の「満員通知」にあたる「入場券完売通知」が数日出るなど、かつての「大入り満員」人気を彷彿させる現象があった。入場者数の累計は56万6500人となった。前回観客を入れた19年の84万1000人と単純な比較はできないが、今回のコロナによる観戦マインド逆風を考慮すれば、高校野球熱健在なりを示した盛り上がりだったといえる。大会は仙台育英が決勝で下関国際に勝ち、白河の関越え初の東北優勝をもたらした。
▽3年間野球を続ける部員数も過去最多
高校野球人気は、その裏付けのデータがある。1年生部員が増えているのだ。日本高校野球連盟が22年7月に発表した5月末現在の部員数によると、硬式野球部員は13万1259人で昨年より3023人減少したものの新入部員は4万5246人で前年より382人増えた。合計部員数は8年連続でダウンしたが、新入生は8年ぶりに増加した。3年間部活動を続ける割合を示す継続率は、1984年の集計開始以降、最高の92・7%に上昇した。プロを含めて野球人気の落ち込みが指摘される中、1年生部員減少に歯止めたかかった理由は何か。そう問われれば、多くの野球指導者からは「そりゃ、大谷効果じゃないの?」という答えが多いという。米大リーグのエンゼルスで二刀流で活躍中の大谷翔平の影響力は、中高球児にも相当及んでいると思われる。
▽部員増はやはり大谷の効果?
1980年に奈良・天理高からドラフト5位で巨人に入団した鈴木康友選手は、長嶋茂雄さんにあこがれて野球を始めた。鈴木選手は巨人、西武、中日で内野手、コーチとしてプロ球界に名を残し、学生野球資格回復の研修を経て、現在は埼玉県の立教新座高野球部の非常勤副顧問を務めている。同校では例年20人前後の1年生部員が、2022年は一気に31人に増え部員70人以上の大所帯になった。鈴木さんは、この部員増の理由について、「やはり、大谷でしょう」と話している。
大谷は、高校の英語教科書に教材として登場したり、小学5年生の国語に紹介されたり教育での貢献度も高い。高校野球は厳しい練習、先輩後輩の締め付け、モンスターペアレントなど負のイメージが消えたわけでないが、ルーキー増加という明るい話題がでてきた。高校野球が全国的に盛り上がるスポーツに復活するために、大人たちも一緒に、少年たちの「野球へのあこがれ」に応えていかなければならないと思う。(続)