「いつか来た記者道」(52)-(露久保孝一=産経)
◎ベースボールの世界一はオランダだ!?
ベースボールは、どこの国で人気があるだろうか。日本では、少年からプロまで多くのファンがいる人気ナンバー・ワンのスポーツである。アメリカは、米大リーグを持つ長い歴史のある野球王国だ。メキシコ、プエルトリコ、キューバ、ドミニカ共和国など中南米の国々でも盛んである。アジアでは韓国、台湾にプロ野球チームがあり人気が高い。
さて、ヨーロッパではどうか。イタリア、オランダ、イギリスで楽しまれていることは知られている。しかし報道は少なく、よく知られていないというのが実情である。
そのひとつの国、オランダで国際野球大会が開かれている。同国の北部、北海沿岸に近いハーレム市の野球場で、隔年「ハーレムベースボールウイーク」という国際大会が実施されているのだ。
2022年7月の第30回大会にはオランダ、日本、アメリカ、キューバ、イタリア、キュラソーの6チームが参加し熱戦を繰り広げた。参加選手はアマもプロも問わず自由で、試合は七回制である。総当たりの予選リーグを行い上位4チームが決勝トーナメントに進み、優勝を争う。日本からは大学選抜チームが出場し5戦全勝で決勝トーナメントに臨んだが、準決勝でオランダに敗退し結局4位に終わった。
▽バットで故郷に錦バレンティン
開催国オランダは強く、チャンピオンの座についた。チームの立役者は、ウラディミール・バレンティンだった。ヤクルト時代に年間60本塁打を記録したスラッガーである。バレンティンは、ハーレム大会で全6試合に2番・指名打者で出場した。自慢の本塁打はなかったが、16打数5安打の打率3割1分3厘と活躍した。オランダ出身のバレティンは、チューリップの美しい花の街に帰って、「故郷に錦を飾る」貢献をしたのである。
バレンティンは、カリブ海に位置するオランダ王国の構成国キュラソーの出身だが、オランダ本国への愛国心が強く、WBCでは13年と17年の大会にオランダ代表としてプレーしている。どちらも4番打者を務め、17年の大会では4本塁打、打率6割1分5厘、12打点の猛打を発揮した。チームは4位だったが、オランダ野球を世界にアピールした。
オランダにおける野球の歴史はかなり古い。ハーレムベースボールウイークは1961年から始まった。その年、日本では1961年(昭和36年)に巨人が長嶋茂雄のMVPの活躍を中心にリーグ制覇し、日本一に就いた。日本と同じように、オランダでもその後、野球人気が高まれば日米欧で野球ブームが起きたはずだが、残念ながらヨーロッパでは野球拡大は限定的だった。しかし、今後に期待できる明るい材料がある。
▽WBCでピアザがイタリア監督に
2023年3月のWBCには、ドジャース時代に野茂英雄とバッテリーを組んだマイク・ピアザがイタリア代表の監督に就任する。オリオールズの強打者トレイ・マンシーニ内野手もイタリア代表選手に加わる。オランダも出場するので再びバレンティンの打棒が見られる。日本の「村神様」ことヤクルト・村上宗隆とバレンティンの新旧ホームラン王のアーチ対決があれば、ファンを魅了する。米国の覇権奪取チャレンジに加えて、オランダ、イタリアのヨーロッパ軍が勝ち進むかどうか、日本を舞台にしたWBCはかなり注目されそうである。(続)