◎三冠王とMVPー(菅谷 齊=共同通信)

2022年のプロ野球は久しぶりに「三冠王」の話題が出た。ヤクルトの村上宗隆が真夏に本塁打を量産し、それに付随して打点も急増。難関の打率も8月下旬にトップに立った。まだ22歳、こと打撃では大谷翔平をはるかにしのぐ、といっていいだろう。
 プロ野球の三冠王はこれまで7人で11回記録されている。1938年秋の中島治康(巨人)をはじめ、65年の野村克也(南海)73-74年の王貞治(巨人)82年と85-86年の落合博満(ロッテ)84年のブーマー(阪急)85-86年のバース(阪神)2004年の松中信彦(ダイエー)である。この三冠王、すべて記者投票によるMVPに選ばれたわけではない。落合の3度目とバースの2度目は西武の石毛宏典、広島の北別府学が選ばれた。
 記者投票はときには意外なことも起きる。シーズン中の大活躍があっても、チームの優勝に結びつかなかったり、不人気な態度などが最後に影響することもなくはない。
 大リーグにすごい例がある。天才打者のテッド・ウィリアムス(レッドソックス)は2度三冠王になったが、いずれもヤンキースの選手に持っていかれた。最初の42年は3割5分6厘、36本塁打、137打点。選ばれたのは3割2分2厘、18本塁打、103打点のジョー・ゴードンだった。47年は3割4分2厘、32本塁打、114打点をマークしたが、3割1分5厘、20本塁打、97打点のジョー・ディマジオに僅差で敗れた。
ファンから記者投票が批判されたのは2度目のとき。予想ではウィリアムスだった。この年はウィリアムスとレッドソックスの担当記者とトラブルを起こしたため、票がディマジオに流れたという。
 ウィリアムスは打率4割をマークした41年も、56試合連続安打したディマジオがMVPとなっている。“キッド”と呼ばれたやんちゃ坊主のウィリアムスとスーツ姿で球場入りする“球界の至宝”ディマジオとの差だった。それでもウィリアムスは兵役から帰還して間もない46年と49年にMVPに選ばれた。
 選手にとって記者投票は侮れない。昔と違って言動がすぐ話題となり、ネット炎上することが少なくない。油断もスキもない時代なのである。(了)