「大リーグ見聞録」(85)-(荻野 通久=日刊ゲンダイ)
◎審判受難時代の到来?
▽ロボット審判をテスト
今年(2025年)、MLBはキャンプで「ストライク」「ボール」の判定にビデオを使うシステムをテストしている。「ストライク」「ボール」をカメラで判定するABS(Automated Ball―Strike System)がそれだ。2014年に「アウト」「セーフ」などにビデオ判定を導入したが(チャレンジ)、とうとう投球の判定にまで及んできた。
使用できるのは打者、捕手、投手の3人だけ。「チャレンジ」と異なり、監督は要求できない。球審のジャッジに納得がいかないとき、選手はヘルメットあるいは帽子を叩いて、球審に「ABS」を要求。ホーク・アイというカメラシステムで集めた投球の軌道データを、さらに高度なネットワークシステムに送って最終チェックをする。判定にかかる時間は平均で約17秒。すでに2019年からマイナーリーグでは採用されている。1試合平均で3・9回使われ、球審の判定が覆ったのは51%だという。
今キャンプでは13球場、オープン戦の60%でテストされる。判定の参考にするべく、選手の身長も計測した。MLBのM・スワード副コミッショナーは「いろんな人に議論してもらいたい」と将来のMLBでの導入に積極的だ。
▽選手、監督は歓迎
2月22日のヤンキース対ブルージェイズ戦では早くもその成果が出た。6回裏、二死走者なし。カウント3-2でヤ軍ペレイラが投球を見逃した。球審の「ストライク」のジャッジに、ペレイラがヘルメットを叩いて「ABS」を要求。判定が「ボール」と覆り、その後3得点。終盤にも得点して5回まで0-4と負けていた試合に逆転勝ちした。
近年、球審のジャッジはより難しくなっている。投手は160㌔のボールを投げ、多種多様な変化球を駆使する。一瞬のうちに「ストライク」「ボール」を100%正確に判断するのは至難の業だ。逆に審判に対するファンやマスコミの評価は厳しくなるばかり。ちょっとおかしいと思われるジャッジをした球審に対して、SNS上には「クビにしろ!」「辞めろ!」という言葉が飛び交う。
このシステムはマイナーリーグでは選手や監督には好評だという。「これは審判の能力を非難、告発するものではない」とMLB関係者はいう。だが採用されたら、結果的にそうならざるを得まい。判定の巧拙が数字にハッキリ表れる。淘汰される審判も出てくるかも知れない。
カメラでチェックしても、最終的な判断は審判が下すことには変わりないが、”誤審”が続けば権威、信頼度は落ちる。審判が捕手の後ろで初めてジャッジしたのは1864年だそうだ。長く見慣れた光景に変化が起こることになるのか。
ちなみにプロ野球では審判の評価はどうなされているのか。
「審判部長や副部長といったベテランがお忍びで球場に行き、審判の技量をチェックする。各球団の監督にも審判個々の評価を聞いています」
取材でこんな話を連盟関係者から聞いたのを思い出した。(了)