第7回 甲子園(島田健=日本経済)

◎転機の試合を予言した名曲

▽球場でなく喫茶店が現場

「甲子園」という題名からすると、球場が舞台と思われるが、夏の高校野球準決勝を喫茶店のテレビで見ている男女の姿を男の目線で描いた作品だ。「(試合の)熱気が店のクーラーと戦っている。君は男は皆野球が好きねと笑い 大観衆の声援聞くだけで私は暑さがつのるわ」。何か微妙な関係が感じられる。「僕はふと君との来年を思う 故郷行きのチケット二枚握りしめたままで」。さだまさしの世界は淡々と進行して行く。

▽敗者に思いを重ねる

高校野球では勝者より敗者に思いが傾くもの。「3000幾つの参加チームの中で たったの一度も負けないチームはひとつだけ でも多分君は知ってる敗れて消えたチームも 負けた回数はたったの一度だけだって事をね」。県大会で負けたチームも本大会決勝戦で敗れたチームも負けた回数は同じ一度だけ。こんな目線にさだファンになる人も出て来そうだ。

▽デビュー10周年アルバム

この曲を含むさだまさしの8枚目のアルバム「風のおもかげ」はデビュー10周年の1983年(昭和58年)11月に発表された。「甲子園」は7月ごろにできたあがったそうだ。この製作時期が話題になった。唄に出てくる準決勝の試合の経過が、8月に行われた実際の高校野球準決勝とシンクロしているからだ

▽池田高ーPL学園

8月20日の試合は前年の夏とこの年の春センバツを制し3大会連覇を目指す池田高と、一年生の桑田真澄と清原和博を擁するPL学園の対戦。試合前は水野雄仁をエースとする池田が有利という声が多かった。「ホームランと突然TV叫ぶ また誰かの夢がこわれる音がする」。二回劣勢と見られていたPLの8番桑田と9番打者が連続本塁打したのだ。

▽最後の打者

唄は「あと一人と突然TVが叫ぶ 君は僕を見つめ涙をこぼしている 背番号14の白いユニフォームが 彼の青春の最初で 最後の打席に入ったところ」で終わる。池田は桑田に反撃もならず、0ー7で最終回を迎え、二死となったところで5番打者に代打を送った。背番号14の増富だった。結果は遊飛でゲームセット。最強を誇ったやまびこ打線から、桑田、清原のPL学園黄金期へと時代が移行する転機の一戦になった。唄と試合のダイジェストを並行させた動画があるので見ると結構感動する。(了)