大リーグ ヨコから目線(荻野通久=日刊ゲンダイ)
◎プレースタイルは選手の財産
▽極端な守備位置と打撃方法
テレビで大リーグの試合を見ると、極端な内野守備が敷かれるシーンをよく目にする。例えば、左打ちのプルヒッターに対して、内野手が右方向(打者から見て)に守備位置を移す。ドジャースの試合では内野手4人が一、二塁間を守るケースもあった。
実績のある、選手だけに対してだけではない。入団1年目の大谷翔平(エンゼルス)に対しても、相手ベンチが指示を出し、三塁手が三遊間に、遊撃手が二塁ベース後方に、二塁手が一、二塁間に守ることがある。それで旧知の野球関係者から聞いた話を思い出した。
かつて石毛宏典(元西武、ダイエー)が現役引退後、ダイエーからドジャースに野球留学をした。その時、選手の打撃練習を見ていると、引っ張ってばかりの右打ちの若手打者がいた。それで石毛はその選手にこんな話をしたそうだ。
「引っ張るだけでなく、センターやライトにも広角に打ったらどうか。その方が打撃の幅が広がるのではないか」
するとその若手打者はこう答えたという。
「アドバイスはありがたいが、自分はこのバッティングスタイルでメジャーに昇格した」
広角に打てるようになれば、相手バッテリーも攻めにくくなり、打率もアップするはずだ。プロ野球なら当たり前の考えかもしれないが、メジャーでは事情が異なるようだ。
実際、私もしばしばメジャーの球場で試合前の打撃練習を見たが、打撃ケージを出てきた選手に打撃コーチがあれこれを教えているのは見たことがない。ひと言、ふた言、会話を交わすケースはあっても、だ。打撃コーチがトスを上げて、選手がバックネットに打ち返すことを繰り返し、それに応じてコーチが指導する。そんなプロ野球でお馴染みの光景も見られない。
▽ヘタにいじれば損害賠償?
メジャー球団の在日スカウトを務めた人にこの話をしたら、こう言われた。
「大リーグでは打撃や投球フォームやスタイルはその選手の財産。コーチといえども勝手にいじったり、直したりできない。もし、アドバイスしてダメになったら、代理人に損害賠償を請求されかねないよ」
損害賠償の話は少し大袈裟かもしれないが、それだけコーチは選手の個性を尊重しているし、選手も自分のフォーム、スタイルに自信を持ち、デメリットがあるにしても、敢えて変えて調子を狂わせたくないのだろう。だからガラ空きのフィールドを狙って打つ打者もまずいない。
今、日ハムで活躍している大田泰示は2008年のドラフト1位で巨人に入団。期待をかけられたが、結局、8年間在籍した巨人では開花しなかった。一軍昇格してもなかなか結果を出せず、二軍に逆戻り。そこで打撃フォームを試行錯誤。上に上がると一軍関係者から「太田は上がってくる度に打ち方が変っている」と言われたこともあったそうだ。何とかしてやりたいという期待の大きさの表れだろうが、メジャーでは考えられないだろう。
極端な守備位置は2010年代の初めころから行われるようになったようだ。データから打者の飛球方向を割り出しての対策だ。内野ゴロを打たなければ関係ないという考え方もあるが、昨年、数学者、物理学者、IT専門家をフロントに採用したヒューストン・アストロズがワールドシリーズを制した。各球団ともデータの収集、分析にますます力を入れ出している。近い将来、ビッグデータを基にした、アッと驚くような作戦、用兵がメジャーの試合で見られることになろう。(了)