「KKドラフトの舞台裏」第3回-(山田 收=報知新聞社)
◎巨人愛の清原は西武、早大進学の桑田が巨人
▽愛が涙に変わった清原
巨人は何故、桑田を指名したのか?
ドラフト会議当日の朝、巨人球団職員から「桑田指名」の情報を得た私は、Yキャップへ無念の連絡を終えると、大きな疑問にうなるばかりだった。
「投手を指名するのは間違いないが、早大進学を表明し、退部届も出していない桑田とは。巨人は勝算があって指名しているはずだから、我々の取材は誤りだった」
思わず嘆息をついた。
ふたを開けてみれば、清原指名には6球団が競合し、西武が交渉権を獲得。もちろん桑田は巨人が単独指名。ドラフト最大の目玉だった清原は、あの涙の記者会見をする。
清原は、雑誌「Number」の連載「告白」の中で、
―ドラフトが近づくにつれて、ジャイアンツには、即戦力の投手が必要だという報道が目立ち始めました。そういう可能性もあるんだろうなあと思いつつ心の底では信じていました。今から思えば信じたかったのか。当日まで巨人に1位指名されるものだと100%、信じていました―
と、“巨人愛”を口にしている。
▽家族も信じた100%巨人
当時の報知大阪のアマ野球担当A記者が回想する。
「清原は当時、日本生命に入社が内定、それをいち早くキャッチしていたので、『清原、巨人以外なら日本生命へ』という逆指名プランを報知でやらせてくれ、と本人と両親に提案したことがあります」
古い手だが、少しでも競合球団を減らすことができればという思いから話をしたのだろう。
ところが、母・弘子さんは、
「和博は巨人へ行きます。運が強いから」
と言った。母子ともども巨人入りを信じて疑わなかったのである。
日刊スポーツの記者経由で、王貞治監督のサイン色紙が届けられ、それが11月19日付の同紙一面を飾った。
本人にも周囲にも、
「巨人は清原を指名」
それが不動と見えたのだ。
▽“KK総ど取り”の情報に事態急転
だが、巨人は誰も思わなかった桑田を指名した。
ここからは推測である。
巨人は当初、清原を1位指名。2位またはドラフト外で桑田指名を考えていたのではないか。あわよくば“KK総取り”である。たとえ、清原の交渉権が得られなくても、桑田が獲得できる、と。
その思惑を吹き飛ばしたのが、西武・根本陸夫管理部長の“清原の外れ1位・桑田案”である。
西武が桑田指名を考えている。他球団に与えたインパクトは大きかった。巨人は一気に桑田単独指名に舵を切る。
その航路設定に大きな役割を果たしたのが、巨人・伊藤菊雄スカウトだった。(続)