「スポーツアナウンサーの喜怒哀楽」(8)-(佐塚 元章=NHK)

◎やっぱり、甲子園高校野球はいいなあ~

 2024年の第106回全国高校野球は、甲子園球場が誕生して100年という記念すべき年だった。73歳となった甲子園OBアナウンサーの今大会の感動を2つ紹介したい。

 自分の赴任地だった学校は気になるものである。2度勤務した広島の代表は広陵高、開会式を見てビックリ!「黒」を基調とした伝統のユニフォームが一新、「白」のユニフォームに変わっているではないか!「何だ、これは」私はしばらく目を疑った。

 中井哲之監督は温暖化対策でユニフォームを変えたと言う。黒より白のほうが2~3度体感が低いらしい。そう言えば、強豪校は数年前から暑さ対策でスパイクを黒から白に履き替えている。しかし、まさかユニフォームまでも・・・。広陵のような伝統校は学校、OB、ファンの支持を受けているから、監督の一存では簡単にユニフォームは変更できないものである。ここが中井監督の思い切りのよさ。私が広島勤務時代の1991年、28歳でセンバツで優勝した時、少年のような愛嬌ある顔に涙があふれたインタビューは忘れられない。以来、中井監督のファンになってしまった。とにかく、正直に話す。2007年夏、決勝で敗れた時には、審判の判定に正直に不満を言ってしまい、高野連から大目玉を食らったこともある。その中井監督も62歳。今回のユニフォーム変更は、常に進化していこうとする中井監督らしいの思い切った発想に拍手を送りたい。

 もうひとつの感動は、8月17日の3回戦、早稲田実業対大社の試合。九回2-2同点、大社1死二、三塁のサヨナラチャンス。絶対ピンチの早実の和泉実監督は、左翼手を投手の左に守らせ、内野手5人の捨て身のスクイズ阻止の守備体制を敷いた。その直後大社の2番の打球は投手左に守るその左翼手へのゴロとなって、一塁アウト、三塁走者もボールが捕手にかえりタッチアウト。ダブルプレー、3アウト!早実の神技とも思えるシフト成功に甲子園は熱狂した。結局、早実はタイブレイクで敗れてしまったが、想定内のプレーとして5人内野を日頃から練習をしていたというから驚くばかりだった。 

 この試合を見て、私は過去の甲子園の5人内野に思いを馳せた。1973年、柳川商(現柳川高)の福田精一監督が打倒江川の作新学院戦で、スクイズ阻止のため3回も5人内野を行ってすべて無得点に抑えた。ドラマチックな甲子園野球は繰り返される、とつくづく感じた。                

 甲子園の実況がしたくてNHKアナウンサーになった私だが、甲子園に別れを告げてからはや20年あまり、それでも大会が始まると、何かソワソワ落ち着かない。「甲子園愛」を今も引きずっている。(続)