「たそがれ野球ノート」(19)-(小林 秀一=共同通信)
◎日米殿堂入り
新年早々、野球界は大きな話題に包まれる。イチローの日米同時野球殿堂入りだ。
このコラムを書いている時点では、まだ正式に決まっていないが、日本は1月16日、米国は1月21日(日本時間22日)に発表される。
達成は確実で、日本人の米殿堂入りは初の偉業。注目は日米とも満票を獲得できるかどうか。日本では史上初めて、米国では2021年のリベラ投手以来二人目で、野手としては初の快挙だという。
あらためてイチローのデータを引っ張り出してみると、「やっぱすげえわ」とうなってしまう。オリックス時代に7年連続首位打者、MLBに移ってからはいきなり首位打者、新人王、MVPを獲得し、04年には262安打を放ち、シーズン最多記録を達成。日米通算安打数は4367本とくる。
イチローの引退試合となったのは19年3月21日の東京ドームでのマリナーズ対アスレチックス戦だ。先発出場し、盛り上がりのピークは交代した8回。いったん右翼の守備につかせるサービス監督の粋なさい配もありドーム中が沸き返った。さらにベンチ前に戻るとナインとのハグが続き、イチローのために試合は中断された。
試合後の会見で「後悔はあるか」と聞かれたイチローは、「今日の球場でのあの出来事…、あんなものを見せられたら、後悔などあろうはずがない」と語った。
イチローにそう言わせた熱狂の三塁側スタンドにいた一人が私だった。中学生の孫といっしょだったので、深夜になってから再度ドームに登場したときはすでに帰路についていた。あとで知ったときの悔しさは、今でも覚えている。
突然、こんな言い方で申し訳ないが、実のところ、イチローのように自尊心の高い選手はあまり好きではなかった。甘さや隙のない人間はどうも信用できないし、発言が完璧すぎる人も鼻につく。とはいえ、あの夜は私の野球アルバムの貴重な1ページである事は間違いない。イチローさん、感動をありがとう。そして少し早いけどおめでとう。(了)