「スポーツアナウンサーの喜怒哀楽」(22)-(佐塚 元章=NHK)
◎新スポーツ庁長官・河合純一さんに期待する
2025年10月1日、新スポーツ庁長官に河合純一さん(50)が就任した。河合さんは生まれつき左目の視力がなかったが、5歳で始めた水泳を、15歳で全盲になっても続け、パラリンピック6大会に出場、5個の金メダルを含む21個のメダルを獲得した。引退後は20年から日本パラリンピック委員会(JPC)の委員長に就任、21年東京パラリンピックの日本選手団長も経験している。日本のスポーツ界をリードする公的組織、スポーツ庁が創設されて10年、初代会長は水泳の鈴木大地さん、2代目が陸上の室伏広治さんであった。3代目にパラリンピックのレジェンド河合さんの就任が決まったというニュースを聞いた時、正直驚き嬉しかった。さっそくお祝いの電話を入れた。
25年ほど前、早稲田大学を卒業し、郷里の静岡県浜松市の舞阪中学の社会科の先生をしながら競技者としてがんばっている姿に私は感動し、NHK静岡放送局のニュース番組に登場してもらった。最初のシーンのために50メートルを泳いでもらい、泳ぎ切るとプールサイドから私がマイクを向けてインタビューにするという撮影をした。さすが一級のパラリンピアン、あっという間に泳いで私の目の前に来た。当時は現役としての夢をおおいに語ってもらったものだ。以来のお付き合いである。
実はその後、河合さんは静岡から国政選挙に立候補し、落選してしまう。この時、私は賛成できなかった。なぜなら、河合さんには障がい者スポーツの日本、いや世界のリーダーとして活躍して欲しかったからである。そして今回、障がい者スポーツのみならず、スポーツ界全体の行政のトップとして活躍する立場についたことに喜びを感じた。
では僭越ながら長官に私からの期待を述べてみたい。まず、河合さんはかねてから「五輪とパラが一体となった共生社会を実現したいと」訴えてきた。初のパラリンピアン出身の会長であることを生かして、異なる観点から強力に行政手腕を発揮してほしい。
次に11月15~26日、東京都を中心に開かれる「聞こえない、聞こえにくい選手の国際大会、第25回夏季デフリンピック大会」を、よりPRして成功に導くことを期待したい。約75カ国から3000人が参加する日本初開催のビッグイベントなのである。一般の人にも、必ず「ある気づき」があるはずである。
次に26年、名古屋での第20回アジア競技大会(9月19-10月4日)第5回アジアパラリンピック(10月18-24日)を成功させてほしい。わたしはアジア大会に3回かかわったが、オリンピックとはまた違う楽しみと温かさがある。まだ国内の関心度は悲しいほど低い。スポーツ庁が戦略をたてナショナルイベントとして盛り上げてもらいたい。
スポーツ庁の大きな課題は、公立中学の運動部活動の地域展開(地域移行)の推進である。この問題は教員の働き方改革が背景にあり、各地域の事情がある。スポーツ庁は推進しているが、学校教育と社会教育の在り方の整合性をもたせるのは困難が多い。実際に地域によっては計画が暗礁に乗り上げているところもある。この難題にどう対処していくか、行政手腕が問われるだろう。河合新長官には同郷のよしみもあり、わたしの期待を述べさせていただいた。(了)
