「記録の交差点」(29)-(山田 收=報知)

第29回 秋山翔吾③
 秋山がシーズン最多安打のNPB記録を打ち立てた2015年。月別の打撃成績を見てみると、前半戦の数字に目を見張らせられる。3、4月(25試合)107打数40安打、打率.374。5月(27試合)119打数40安打.336。そして6月(22試合)96打数43安打.448。シーズン半分以上を消化した(74試合)時点で、打率.382。加えて5、6月にわたり2か月連続40安打以上。これは、1994年5、6月のイチロー以来だ。
 殊に6月はハイレベルである。ちょうどこの時期に重なるように、秋山はNPB歴代3位となる31試合連続安打を記録している。6月3日の中日戦(ナゴヤドーム)から7月12日の日本ハム戦(札幌ドーム)までの鮮やかなストリーク道である。この間、129打数59
安打、打率.457とまさに打ち出の小槌状態だった。中身を見てみると、4安打=2試合、3安打=8試合、2安打=6試合、1安打=15試合。半分以上がマルチ安打なのである。
 その試合で初めてヒットを打った打席を調べてみた。第1打席=4試合、第2打席=7試合、第3打席=5試合、第4打席=4試合、第5打席=1試合となる。数字を見る限り、この記録続行がピンチに見舞われたといえるのが、第5打席でやっと安打を放った28試合目だろう。それは7月8日のオリックス戦(西武プリンス)だった。四球、右飛、左飛、四球とここまで4打席無安打。不動のトップバッターだから第5打席があるといえるだろうが、ここで左越えに8号ソロ本塁打を打ち込んで❝延命❞したのである。
 31試合連続安打は、野口二郎(阪急)が1946年に達成した1リーグ時代の最高記録である。同じ阪急の長池徳二の持つパ・リーグ記録(1972年)の32試合連続に挑戦したのが7月14日の楽天戦(西武プリンス)だった。空振り三振、右飛、遊飛、左飛と音無しで臨んだ第5打席は、2-2の同点で迎えた延長10回裏。フルカウントから楽天・青山浩二が投じた外角高めのストレート。秋山の技術があれば、ファウルできた、とは当時の報道だが、これを見逃し、四球を選んだ。さらに後続打者が四球で塁を埋め、中村剛也がサヨナラ3ランを叩き込んだ。
 記録はストップしたが、チームの連敗を止める貴重なフォアボールとなった。この試合を振り返って秋山は「記録ストップは、相手が上ということ。でもフォアボールで塁に出られたので、自分の中では清々しい感じでした」と話している。個人記録よりもチーム勝利を優先する思いが籠った四球だった。
 この秋山の記録が、呼び起こしてくれたのが、前述した野口二郎、長池徳二と1979年に
33試合連続安打でNPB記録を更新した高橋慶彦(広島)の姿だ。この記録は、46年間破られてはおらず、伝説の記録になりかけている。次回は、この3人のレジェンドたちの戦いを振り返ってみようと思う。記録は2025年シーズン終了時点=(続)